2013年12月13日金曜日

坂町坂だより NO.312


 
 久しぶりに甲府市を訪ね、山梨県立美術館で行われている「生誕100年萩原英雄展」を見てきた。すでに教会員の何人かの方々がわざわざ足を運んでくださり、娘のギャラリートークを聞いてくださった方もある。とても良い企画展で、素晴らしいとの感想を頂いていたので親としても楽しみであった。山梨県立美術館は広い公園敷地に文学館などと一緒に建っている。空間的にゆったりとした印象を与えるレンガ色の落ち着いた建物である。当日は初冬ではあったが温かな日差しの気持ちの良い朝で、公園内の写生を楽しむ方々や散歩を楽しむ方々と挨拶を交わしながら特別展に向かった。

 萩原英雄氏は1923年生まれ、2007年没という94歳の長命であり、晩年近くまで精力的に制作活動を続けた版画家である。その制作数はかなりの量になる。今回はその内約180点の代表作を網羅している。作家の地元ということもあり、今後萩原氏を論ずる上で一つの目安となるように企画されていると思われた。代表作として有名な「三十六富士」「拾遺富士」「大富士」は最後に配置されているのだが、そこにたどり着くまでに数多くの作品を見てゆくことになった。

 そのなかで氏は戦後間もなく結核に苦しみ、都内の療養所に3年余を過ごし、そこで聖書に出会い、キリストの生涯をテーマにした作品群を制作している。キリストはガイコツとして描かれているが、氏は療養所の仲間たちを指導し、絵画制作を通して共に病気に立ち向かったことを知った。いつも自らの死を深刻に見つめ続けた日々があったのだ。深い闇の世界に向き合いつつ、そのただなかで命の意味を問いかける歩みがあった。その他にもギリシア神話の作品群やイソップ物語の世界、その長い制作活動を貫く新しい版画の表現法へのあくなき挑戦の日々など、芸術家の創造的なダイナミズムが感じられた。それらの作品を通して生きる力や人生の意味を問う作家の力強い生き方に出会った。
 今この国を覆う「秘密」や「原発」の暗い闇。その対極にあった南アフリカに希望の光を灯したマンデラ大統領の死去。まさに深い闇の時代であるがゆえに、その闇を直視しつつ乗り越える知恵と力を得たいと思う。イエス・キリストの誕生の出来事に出会うことによって。

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