2013年12月4日水曜日

坂町坂だより NO.310


 
 何と壮絶な人生なのだろう。そして何と直向きな人生なのだろう。

私の小欄に書くことなどは申し訳ないような思いであるが、『信徒の友』誌10月号の新刊案内にあった一冊を購入し、圧倒的な迫力にたじろぎながら読了した。本の紹介者は今回北支区から派遣されて説教応援に出かける下ノ橋教会の牧師で、奏楽が大変上手な若手のM先生である。本は『交響曲第一番~闇の中の小さな光~』(幻冬舎文庫・571円+税、20136月)。著者は佐村河内守(さむらごうち まもる)氏。本と共にCD「交響曲第一番《HIROSIMA》」も購入したが、ともかく本を読んでからCDを聴くことにした。

 広島の被爆者である両親、その被曝2世として1963年生まれの彼は4歳から母親よりピアノの英才教育を受け、厳しい指導に鍛えられて10歳でベートーベンやバッハを弾きこなす。母から「もう教えることはないと」告げられて以降、作曲家を目指し、最終的には交響曲の作曲を目標に。中高生時代は「音楽求道」に邁進し、あらゆる音楽知識、技法を独学で習得。だが17歳の時から障がいを発症し始め、原因不明の偏頭痛に苦しみ出し、聴覚障がいに怯える。高校卒業後、現代音楽の作曲法を嫌って音楽大学には進まず独学で作曲を学ぶが、生活は放浪に近い状況に。1988年人生の大きな飛躍を前に最愛の弟が交通事故死。その不条理に打ちのめされながらも、聴力の低下の中で劇伴作曲家として作品を発表。映画「秋桜」、ゲーム「バイオハザード」などの音楽を手がける。ゲームソフト「鬼武者」の音楽担当として注目されるが、この時期に完全に聴力を喪失し全聾となった。

 心身の症状は重症化し、耳鳴り発作、轟音が鳴りやまぬ頭鳴症、重度の腱鞘炎、さらに抑鬱神経症、不安神経症に苦しみながら、内なる心に聴こえる絶対音感だけを頼りに壮絶な作曲活動を続ける。全聾になってからそれまでの12番までの交響曲を全て破棄し、新たな1番の作曲に取り組む。その過程で障がいを負った子どもたちとの出会いから生きる希望を与えられる。余りにも深い絶望的「闇」の日々、そしてそのなかでのみ聴くことのできる「闇の音」、それが想像を絶する戦いであるがゆえに、読む者、そして聴く者の魂を激しく揺さぶって止まない。

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